前回のコラムでは混合ワクチンについてお話ししましたので、今回は狂犬病ワクチンについてお話しします。
狂犬病は人にも感染する人獣共通感染症
まず初めに、狂犬病は人獣共通感染症(動物にも人にもうつってしまう病気のことです)であり、全ての哺乳類に感染し発症する致死性の病気です。
狂犬病とは狂犬病ウイルスに感染することによりかかる病気で、特徴的な症状としておかしな行動をとる、変なものを食べる、刺激に対して敏感になる、目が乾く、攻撃的になる、よだれをだらだら垂らす、体が麻痺するなどがあり、その後死亡します。
また、いきなり麻痺から始まるケースもあり、その場合は数日間の体の麻痺や意識不明などののちに死亡します。
狂犬病ウイルスは発症している犬等の動物の唾液にひそみ、その動物が犬や人を咬んだ際に傷口からウイルスが侵入することでうつります。
侵入したウイルスは神経組織に入り、そこで増えながら少しずつ神経を登り脊髄、脳へと達します。そうして前述したような神経症状が出るのです。
この時、唾液腺でもウイルスが増えるので唾液から次の動物へと感染することになります。
なお、感染してから発症するまでの期間(潜伏期)は、1週間から1年以上のこともあります。これは咬まれた部位がどこかによって、ウイルスが脳まで登るのにどれだけ時間が必要かが変わってくるのです。
狂犬病の致死率は100%だから
狂犬病ワクチンは、法律で毎年1回、犬への接種が義務づけられています。なぜ混合ワクチンと違って狂犬病ワクチンだけが法律で定められているのか、それは狂犬病が人獣共通感染症であるうえ、発症すると致死率ほぼ100%という恐ろしい病気だからです。
そのため狂犬病に関しては、狂犬病だけについて定められた法律(狂犬病予防法)があります。
この法律で私達飼い主は、犬を飼い始めたことの市町村への申請と毎年のワクチン接種が義務づけられているのです。そして、申請を出すと鑑札(かんさつ)が、ワクチン接種をすると注射済票が、もらえます。
この鑑札と注射済票を犬につけることも飼い主の義務です。どちらも小さいものですので、首輪につけてあげましょう。これらの札は犬が万が一迷子になり保健所等に保護された際にも役に立ちますよ。
日本での発症は1956年を最後に確認されてないけど
日本はこうして犬の登録、ワクチン接種による予防に努めてきたおかげで、1956年の発生を最後に清浄国(病原体に汚染されていない国)になる事が出来ました。
しかし世界中で清浄国は数少なく、イギリスやオーストラリアといった島国を始めとするいくつかの国だけです。
しかしイギリスやオーストラリアでも近年、狂犬病関連(類似)ウイルスがコウモリから見つかっていますので、日本は本当に稀な清浄国と言えます。
こうしたことも踏まえ、犬と海外に行くことがある場合には、抗体(ウイルスと闘ってくれるものです)が体内に必要量あるのかの血液検査が必要です。
抗体がきちんと増えていない、もしくは減ってしまっている場合には再接種により抗体を作らせてあげないと、犬に危険があります。
また帰国の際に検疫にひっかかり、すんなりと日本に入ることができない可能性がありますので、かかりつけの動物病院で事情を話し早目に検査をしてもらいましょう。
犬を海外旅行に連れて行くのには細心の注意が必要
また人も、海外旅行先で感染犬に咬まれて感染することがあります。実際に2006年に、フィリピンで咬まれ感染した人が帰国後発症し亡くなられています。
人の場合、海外へ行く前のワクチンと、万が一発症している動物に咬まれた際に打つ暴露後免疫というものも利用されていますが、もしも犬等の動物が感染動物に咬まれた場合には残念なことに殺処分することが決められています。
これは清浄国である日本、そして日本に住む人々、犬達みんなを守るためです。
※参考文献 「動物の感染症 第二版 近代出版」 「狂犬病予防法」
この恐ろしい病気を日本に入れない、広めないためにも、狂犬病ワクチンを毎年きちんと受けましょう。犬自身を守ることも、犬を飼う上でのマナーを守ることも、飼い主さんの大切な努めですよ。
(ライター:ゆいべたりなり)